2013.10.1
福田くみ子議員の討論
発言通告に従って議員案第8号「若い世代が安心して就労できる環境等の整備を求める意見書」について共産党としてどうしても同意できない内容を含んでいるため、反対しその理由を述べたいと思います。
この意見書は、趣旨については賛同できるものですが、具体的な要望内容については、趣旨に反する内容が含まれており若い世代ばかりか日本の労働環境を一層劣悪にし、雇用破壊を進めるものであると考えます。
具体的には、3の「地域限定や労働時間限定の正社員など、多元的な働き方を普及・拡大する環境整備を進める。」について、派遣労働と正規雇用の中間をイメージさせますが、むしろ正社員の解雇を容易にするものであって、労働者全体の雇用をさらに不安定化させるものと言えます。
安倍内閣では、「経済財政諮問会議」・「産業競争力会議」・「規制改革会議」の3つの会議を中心に「労働改革」の検討を進めています。これらの会議は、従来とは違って、財界人と少数の学者を中心に、極めて、経営側に偏った極端な議論をしているのが特徴です。
規制改革会議の今年6月5日の答申では、雇用の多様性、柔軟性を高める政策を展開することが強調され、その中で正社員についての解雇規制の見直しが取り上げられ「解雇ルールの合理化・明確化」や、「解雇自由の原則」を労働契約法にも明記するなど、解雇ルールを見直すことが提案されています。
そもそも「限定正社員」とは何か。規制改革会議の答申によれば、日本の正社員は、職務、勤務地、労働時間(残業)が限定されていないという傾向が欧米に比べて顕著であり、「無限定社員」となっているとし、「職務、勤務地、労働時間(残業)が特定されている正社員、つまり『限定正社員』を増やすことが、正社員1人1人のワークライフバランスや 能力を高め、多様な視点を持った労働者が貢献する経営を促進することとなり、労使双方にとって有益である」と言っています。
そして、正社員改革の第1歩として、「限定正社員」に関する雇用ルールの整備を行うべきであるとし、正社員ではあるが、勤務地や職務、労働時間が限定された、「限定正社員」の導入を提言しています。「限定正社員」は、勤務地や職務、労働時間について限定を受ける代わりに「無限定正社員」異なって、解雇がより容易になる、というものです。こうした「限定正社員」の導入に応じた、より緩和された解雇ルールを定めるというのが、規制改革会議をはじめとする論議に共通したものとなっています。
しかしこうした議論の前提には「無限定正社員」は、企業貢献度が高いので解雇制限が厳しいが、「限定正社員」は、そうではないので、解雇はより容易であるとの考え方があります。しかし、そのような考え方は、世界的に見ても極めて特異な考え方です。何よりも「無限定正社員」は、過労死につながる異常な長時間労働と、企業の人事命令への絶対的服従という、他国には見られない「反労働法的」「反人間的」なものです。フランスやドイツでは、労働者は勤務地や職務を限定した雇用であり、そういう意味では、「限定正社員」と言えます。しかし、企業の絶大な人事権は否定されており、特に労働時間の規制は厳しく、協約や法律が定める限定された労働時間の範囲内で働くことは、当然です。
政府の規制改革の議論は、「無限定正社員」と言う世界基準から大きく外れた「非人間的な労働」を改善しようとせず、現状を維持するものです。
日本では、リストラによる正社員の大量削減、非正規雇用の継続的増大が進行しています。EUだけでなく、韓国でも非正規労働者保護規制が、格段に厳しく、違法派遣での派遣先直接雇用責任が、明確です。日本の経営者ほど法的規制を受けずに、自由に解雇調整できる国は少ないと言います。誤った認識を前提に、日本の「行き過ぎた雇用維持型」をあらためるとし、さらに「移動支援型」へ転換することをめざすのは、正社員の解雇を容易にすることで、労働者全体の雇用を不安定化させるものにほかなりません。
労働者の3人に1人、若者の2人が非正規雇用者です。また、正規雇用であっても、長時間労働、名ばかり管理職に代表されるただ働き残業のまん延、さらには、史上最大の260兆円もの内部留保をかかえながら、輸出不振を口実にした大企業の理不尽で非人間的な解雇が横行しています。こうした雇用破壊に歯止めをかける規制や、人間らしい労働を取り戻し、日本的非正規雇用の抜本改善こそ政府の責務です。ところが、政府が進めようとしている規制改革は、企業の社会的責任を明確化することなく、「限定正社員」に象徴されるように、雇用の流動化、多様化を口実とした解雇自由な企業の論理に立ったとんでもないものと言えます。
当該意見書は、「若い世代が安心して就労できる環境等の整備を求める」としていますが、具体策では安倍政権が進めようとしている労働規制改革の中心の一つと言える「限定正社員」を推進する内容であり、労働環境の改善とは相いれないものであることを述べて、反対討論といたします。