2012.10.3
荒川つねお議員
陳情第19号「国民健康保険への国庫負担金の増額を求める陳情」不採択に反対する討論
日本共産党を代表して、ただ今議題となっている陳情第19号、国民健康保険への国庫負担の増額を求める陳情について、不採択に反対の討論を行います。
国民健康保険の歴史を振り返りますと、1938年(昭和13年)満州事変を終えて日中戦争に入っていく時期ですが、その中で、健康な人民を作れば、健康な兵隊ができるという健民健兵政策の一環として、国民健康保険法が作られました。この法律を旧法とすると、戦後1958年(昭和33年)、旧法が全面的に改正されて、現行の新法ができました。1961年には、国民皆医療保険という体制となり現在に至っています。
旧法の第一条は、「国保は相扶共済の精神に則り、疾病・負傷・分娩又は死亡に関し保険給付を為すを目的とする」としていました。
新法制定以降の第一条は、「国保は社会保障及び国民保健の向上に寄与すること」が目的とされました。
そして、日本の国保は、他国の医療保険にない特色として第一に、年金生活者、失業者、非正規労働者など経済的弱者を一手に引き受け、他の被用者保険や他の公的医療保険の補完的なセーフティーネット的役割を果たしている保険であること。国民の健康と福祉を守る社会保障の制度であることです。
第二の特色は、市町村単位の地域保険であり、事業主負担がない国保は、手厚い国庫負担によらなければ成り立っていかない医療保険です。
こうした中にあって、今、国保は危機に瀕しています。陳情趣旨にある通り、深刻な経済危機が市民の雇用と暮らしを直撃し、国保税が高すぎて払いきれない。保険制度があっても患者になれない受診抑制などの事態が進行しているのも事実です。
そこで、「国保への国庫負担を増やすように国に意見書を提出して下さい」との陳情事項については、国保の歴史と特徴、現国保の目的に照らして、異論をはさむ議員はいないと思いますがいかがでしょうか。
では、なぜ不採択だと言うのか。委員長報告によれば、国庫負担増額を求める理由として「国が補助金を大幅に減らしてきたことにより、各自治体は保険税を上げざるを得ない状況」とあるが、三位一体の改革以降、国から県への財源が移譲された経緯はあるが、公費全体での負担割合は維持されており、国からの補助金の減額が保険税の増額につながっているとは考えられない」というのが第一の理由となっています。
しかし、国保財政を全国的に危機に追いやって来た国庫負担削減の問題は、2005年からの三位一体改革以降から見たのでは、国保財政悪化の根本原因は見えなくなります。
その根本原因こそが、1984年の国保法の改悪です。この改悪で、定率国庫負担を45%から38.5%に削減されたことにあります。それまでは「かかった医療費の45%」とされてきた一般被保険者への国庫負担を「給付費の50%」に変えました。45%が50%になったのに「削減」とは分かりにくい話です。国保では、かかった医療費の3割が患者負担で、7割が保険から給付されます。給付費の50%というのは、かかった医療費全体で見ると7割の半分、35%になります。
つまり、医療費の45%から給付費の50%に変えたということは、医療費の45%から医療費の35%に減らされたことになるわけです。ただ、公的医療保険には高額医療費があるため、その給付を加味すると38.5%の国庫負担率となります。
この大改悪で、市町村の国保財政は悪化し、全国の9割の自治体で、国保財政が赤字に転落し、削減分6.5%が保険料負担となったため、1984年以降9割以上の自治体が値上げを行い、全国平均で36%もの値上げとなりました。しかも国の責任後退はそれだけに止まりませんでした。
まず、事務負担金です。市町村国保の事務費は全額国庫負担金でしたが、1992年に廃止されました。助産費補助金もかつては国庫負担が1/3だったのを1992年に改編されています。また、保険料の法定減額に当たる公費も、全額国が出していたものを、1984年に8/10に減らされ、その後、保険基盤安定制度に変えられ、国庫負担が5/10になり、さらに、定率負担から定額負担にされました。
以上のことを踏まえて、国保の総収入に占める国庫負担を国民健康保険事業年報で、1984年と2005年度を比較するとどうか。49.8%が30.6%に減ってしまっているのです。私は、国庫負担率を、まずこの元に、戻せと言いたい。
さらに、こうした国庫負担金の全体が減らされるだけではなく、給付費に対する定率負担50%のうち、調整交付金においても、収納率の悪い市町村への補助率カット、窓口負担の無料化に対するペナルティ等で、実際には削減されているのもご承知の通りです。
こうして見てみますと、陳情者の願意は正当なものであります。
第二の不採択の理由として、国も「社会保障と税の一体改革に取り組んでいるところであり、社会保障全体のバランスを考えると、国民健康保険の制度見直しに特化して要望することは好ましくない」との意見でありますが、これは全くおかしな話であり論外です。
「税と社会保障の一体改革」とやらは、そもそも先の国会で、消費税の大増税を通さんがために仕組んだ、自民・公明・民主の密室談合の産物であり、その内容も明らかではなく、国民が認知している訳でもありません。その一方で、現在、保育をめぐっても、医療分野でも、介護の分野でも、国の相次ぐ社会保障制度改悪のもと、国民や市民の怒りと切実・緊急な要求は渦巻いています。
しかるに、この得体の知れない「税と社会保障の一体改革」とやらを金科玉条にして、個々様々な市民の声と要望を好ましくないなどと、押さえ込もうとする結論づけは、本市議会として余りにも恥ずかしく残念であります。
最後に、国民健康保険とは本来、国民皆医療保険の最後の砦として、弱者を守るための医療制度だった筈です。それを、高い保険料で市民を苦しめ、保険証取り上げで命まで奪う制度に変質させてはいけません。冒頭述べた国保法第一条「国保は社会保障及び国民保健の向上に寄与する」にしっかりと立脚させるべきではないでしょうか。
そのためには、国民健康保険を複雑な内容と財政をもって、県や市町村に運営を押し付けることを許さず、国としての果たすべき責任をしっかりと果たしてもらうことを、この宇都宮市議会から求めることにあると思いますが、議員の皆さん、いかがでしょうか。
陳情第19号の採択に、賢明なるご判断とご賛同をお願いいたしまして私の討論を終ります。