2012.6.29
福田くみ子議員
生活保護制度の改善を求める意見書」案について反対する討論
発言通告に従い議員案第11号「生活保護制度の改善を求める意見書」案について反対する討論を行います。
生活保護制度は、憲法25条に基づき、国民の生存権を保障する最後のセーフティネットです。お笑いタレントの実家の母が生活保護を受給していたことを、自民党議員や一部メディアが問題視したことをきっかけに、NHKでも民報でもそしてインターネットでも、生活保護バッシングが異常な広がりを見せました。このタレントの場合、不正受給と指摘するような法律違反はありませんでしたが、マスコミは、そのことにきちんと触れるよりも、生活保護の不正受給の実際の例と合わせてクローズアップ、スタジオでのゲストは言いたい放題、「もらい得って言葉がある。国が面倒みてくれて当たり前。昔は生活保護は恥ずかしいことだった」とか、街頭でマイクを向けられた人が、「税金を払うのがばからしくなっちゃっいました」というように生活保護バッシングは増幅していきました。こうした生活保護たたきの報道が、「不公平感」をあおり、それに便乗して政府や自民党は、制度改悪による生活保護費の大幅削減を進めようとしていることは、極めて遺憾です。
意見書では、まず「生活保護受給者が209万人を超え急増しており、市の予算を圧迫している」と述べ、「本来国の責任において全額、国が措置すべきもの」としています。その点は、全く同感です。しかし、「制度疲労」との指摘により求めている具体策は、憲法25条の生存権保障である生活保護制度の根幹を揺るがす内容と言え、到底賛同できるものではありません。
次に、この意見書の2番目で「勤労者の賃金水準とのバランスに配慮して、生活保護基準との適正化を図る」ことを求めています。意見書の中でいう「適正化」とは、自民党が今年4月9日に発表した「生活保護制度に関する政策」の中で述べている「給付水準の10%引き下げ」につながるものと見て取れます。生活保護基準にも満たない低賃金の非正規労働者が多いことを問題にし、生活保護基準を引き下げることで整合性を図ろうというのは問題解決にならないばかりか、全くの本末転倒の話です。生活保護基準の引き下げは、意見書の第4番目で求めている「貧困の連鎖を防止する」どころか受給世帯の生活を困難にするだけでなく、住民税の非課税基準の引き下げ、保育料や減免制度の切り下げ、最低賃金の引き下げなど、国民全体に波及し、「負のスパイラル」を招きかねません。作家の雨宮処凛さんは、「貧困の蔓延は、自民党が与党時代の政策の結果。その責任をとるべきなのに、たたき落とした人を見捨てようとする動きに憤りを感じる」と述べています。
また、前文では「年金制度を含めた生活保障制度の不整合に対応できておらず、制度疲労を起こしている」とも指摘していますが、これは、生活保護制度の制度疲労によるものではなく、現行の基礎年金が高齢者の生活水準を維持できるものではないことに問題の本質があります。
次に、意見書3番目では「自立・就労支援の強化」を6番目では「ケースワーカー業務の民間委託も含む業務の改善」を求めています。深刻な雇用破壊の中では、就労が可能な人でも自立できるだけの賃金と労働条件の仕事を見つけるのは極めて困難な状況の中、一人ひとりにあったきめ細かで丁寧な就労支援こそ求められていますが、一つ誤れば、人間性を破壊しかねない安易な就労の強要へつながることが懸念されます。また、宇都宮市では、ケースワーカー1人当たりの標準配置数は96世帯で、法定基準80世帯を大きく超えています。嘱託職員が聞き取り調査などを担っているものの、「生活保護」という最も人権にかかわる部署であり、経験の蓄積が求められるところでの非正規化は問題です。あるケースワーカー経験者は、新聞の投書欄で「適用漏れがあったら取り返しがつかないと教えられていたが、最近はあたりまえに門前払いが起きている」と、述べています。宇都宮市の窓口でも決して人ごとではなく、申請の権利侵害が頻繁に起きている状況は見逃せません。ましてやケースワーカーを安上がりの民間委託に丸投げなど、とんでもないことであり、人権感覚をきちんと身に付けた公務員が担うべきところです。そしてケースワーカーの法定基準数を満たすこと、業務経験を重視し福祉の仕事としての水準を引き上げることが、就労支援や自立支援の充実強化にもつながるものと考えます。
不正受給や貧困ビジネスは、もちろん許されることではありません。しかし今、生活保護制度で重要なことは、必要な人に手が届いていないことです。生活保護受給者が実数では209万人に増えていますが、人口に占める割合は1,6%で、1951年の2,4%と比較しても3分の2程度です。生活保護を受ける資格のある生活水準の世帯で実際に受給している世帯の割合、つまり捕捉率は、ヨーロッパでは5〜8割程度であるのに対し、日本は2割程度と大きく立ち遅れています。
全国各地で起きていることは、生活が困窮している人に対し「まだ働けるでしょう」などと申請さえ受け付けない事態です。今年1月に判明した札幌市の姉妹「孤立死」では、姉が生活保護の相談のために市の窓口を3度も訪問していたのに、申請させなかったことによって引き起こされた悲劇です。ますます、制度から締め出す人を増やすような改悪は、こうした「孤立死」を激増させることになります。
近年、生活保護世帯が急増しているのは、非正規雇用の蔓延による低賃金労働者や失業者の増大、脆弱な社会保障制度が原因です。この問題を解決せずに、生活保護制度をさらに受けにくいものに改悪することは、憲法25条の生存権の否定にほかなりません。自殺者が14年連続で3万人を超えていますがこれにもさらに拍車がかかりかねません。日本は今、病気や失業すれば誰もが一気に無収入になりかねない「滑り台」社会です。憲法25条で保障された生存権を破壊する改悪は中止し、生活を保障する機能を強めることが急務です。
最後にタレントの生活保護の騒動に触れた、下野新聞のコラムの1部を紹介します。「統計によれば生活保護の9割近くが高齢者、障害者、母子世帯だ。今の情勢でこれらの人たちが職に就くのは極めて難しい。昨年の政策仕分けでは、受給者が205万人を超えたことが問題とされた。しかし、205万人もの人が救われたとみるべきではないか。」マスコミがこぞって、生活保護バッシングに血道を上げる中、胸が熱くなりました。どうか、良識ある皆様のご賛同で、この意見書提出を断念くださることをお願いいたします。
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