2012.6.29
荒川つねお議員の反対討論
私は、ただ今議題となっている「緊急事態基本法」の早期制定を求める意見書提出を求める陳情に係る意見書(案)について反対の討論を行います。
その第1の理由は、いつ起きるかわからない自然災害と、予測できうる戦争やテロを、「緊急事態」として同列視し、一括りにできるものではないということです。
そもそも、突発的自然災害への対応は、現行法において十分可能であり、基本法の制定などは全く必要ありません。
意見書(案)では、現在の憲法では、平時を想定した内容となっており、非常事態事項が明記されておらず、大規模災害には対応できないかのようなことを言っています。これは、現行法の規定をわきまえた上で言っているとは、到底理解できない議論です。
なぜなら、今回の東日本大震災・津波被害への対応や、東電福島第一原発事故による放射能被害への対応については、現憲法のもと、「災害対策基本法」「大規模地震対策特別措置法」「原子力災害対策特別措置法」など、対処すべき法律が制定されています。そして、災害対策基本法の第8章においては、大規模な非常災害が発生し、その災害が、国の経済や公共の福祉に重大な影響を及ぼす激甚なものであり、災害応急対策を推進するために、特別に必要がある時は、首相が「災害緊急事態」を布告し、緊急災害対策本部を設置するとされています。またこの場合には、必要な救助を行い、被災者の保護や社会秩序の保全を図る観点から、国民の活動に対する一定の制約が認められていることも、既に国会で明らかにされています。
意見書(案)では、今回の大震災・原発事故への初動の遅れにも言及していますが、これは、法整備の問題ではありません。その原因は、民主党政府の統治能力、危機管理能力の不足による初動体制の遅れです。それが被害を拡大したことが明らかです。
第2の反対の理由は、それなのに、なぜいま緊急事態法の制定なのか。被災地では、一日も早い復興への必死の努力が続けられている最中です。その震災を利用して、基本法制定を企てるというのですか。そんなことは到底認めるわけにはゆきません。同時に、この法制定を突破口にして、憲法改正を目論む狙いが陳情の背後にあることは明らかですが、陳情理由を丸呑みの意見書(案)に議員の皆さん、本当に賛成でいいのですか。
緊急事態法の定義に記されている、外国からの武力やテロの攻撃など有事への対処の仕方は、まさに、憲法9条を踏みにじるものとなっています。先の、あの侵略戦争によって、多数の尊い生命が奪われ、その反省と教訓の上に制定されたのが憲法9条です。この原点に立ち返って、この意見書(案)をもう一度検証すべきと思いますがいかがでしょうか。
また、意見書では、中国漁船尖閣事件やロシア閣僚の北方領土訪問、北朝鮮ミサイル脅威などが列挙されていますが、これも既に決着済みの問題です。中国漁船衝突事件は、尖閣諸島が日本の領土であり、その領海内で外国漁船が不法な操業をしていたのを、海上保安庁が取り締まるのは当然のことであり、領土問題などを含めた国際的な紛争解決は、平和的、外交的に話し合いで解決することが、国際ルールであり、その外交力をもっといかんなく発揮することこそが求められているということではないでしょうか。
反対の第3の理由は、憲法が保障する基本的人権を制約できるようにしようとするものであることです。
2004年に、自民、公明、民主が合意した緊急事態基本法とは、政府が緊急事態と認定したら、基本的人権を制約する人権停止法です。日本国憲法は、戦前、基本的人権を抑圧してきた政治体制が、無謀な戦争を引き起こしたという深い反省の上に立ってつくられたものであり、そこには、政治の責任で、あのような惨禍を再び繰り返してはならないという決意がこめられています。それを踏みにじって「必要最小限」を口実に、基本的人権を制限しようとすることなどは断じて認めるわけにはゆきません。
例えば、ひとたび基本的人権の制限を許してしまったら、一体どうなるのか。福島第一原発事故で放出された放射能がどのように拡散したのか、事故直後は全く発表されませんでした。その結果、原発から30km以上離れた飯舘村に放射線量が極めて高い地域が出現していたのに、住民には1週間も知らされず、住民避難が遅れる事態を生み出しました。南相馬市では、比較的放射線量の低かった海側の学校から飯舘村に近い放射線量の高い学校に避難させるということも起こってしまいました。128億円もかけてつくったスピーデーの放射能拡散予測を政府が隠していたからです。このように、国民の知る権利を制限し、情報を隠すやり方が堂々とまかり通り、緊急事態基本法が示す、基本的人権の制限が公然と行われれば、それは震災救援・復興にとっても大きな妨げになることは明らかです。
緊急事態基本法が、3党合意が交わされてから、すでに8年が経過していますが、今だに国民は、この危険で問題の多い法制定を許してはいないのです。
今、やるべきことは、緊急事態基本法の制定などではありません。大震災や原発事故など、多くの苦難の中から学んだ教訓を生かし、震災の復旧・復興に全力を上げることではないでしょうか。宇都宮市議会日本共産党は、この意見書案には断固反対を表明します。同時に、日本共産党は、震災の復旧・復興に力をつくす決意を表明し、討論を終ります。
議員各位の賢明な判断とご賛同をよろしくお願いします。
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