2009.12.22福田くみ子議員

  私は、日本共産党を代表して、議員案第10号湯西川ダム建設事業の推進を求める意見書に反対する討論を行います。
 今回の意見書案では、湯西川ダムの本市の取水の必要性だけにとどまらず、関係自治体の治水・利水の両面において必要不可欠な施設と断定し、事業の推進と一日も早い完成を要望するものとなっています。したがって、私は、治水・利水、さらに自然破壊の観点から、湯西川ダムそのものが必要のない大型公共事業であることを指摘し、当意見書に反対する理由を述べてまいります。
 さて、日本共産党は、これまでの論戦の中で、市の示してきた水需要予測が過大見積もりであることや現在の保有水源を正当に評価することと、最新の浄化技術の導入や水源涵養で保全に力を注ぐことにより、宇都宮市として、湯西川ダムからの取水は必要ないと中止を求めてきました。
 過大な水需要予測については、さきの荒川議員の一般質問での指摘でも明らかなように、平成15年度の水需要見直し後の予測値と実績値は年々広がり、大きな乖離が生じています。例えば1人当たりの平均給水量を見ると、平成13年度の実績値は379リットルだったのに対し予測値は385リットル、その差は6リットルでしたが、平成20年度には、予測値385リットルに対して実績値は344リットルと、その乖離は41リットルにも広がっています。1日当たりの給水量では、平成20年度の最大値は204,000トンで、20万トン以上給水した日はこの日1日だけ、194,700トンが1日、あとは188,000トン以下です。226,000トンという水需要との関係では、最大値204,000トンでも2万2,000トンが水余りとなり、1年365日のうち363日は3万8,000トン以上が水余りという事態です。
 また、現在の保有水源を正当に評価し、きちんと保全すれば、将来の水需要を十分に賄うことができるとも考えています。まず、クリプトストリジウムの検出で休止している宝井水源は、この菌を除去する膜ろ過装置の施設整備で復活が可能です。この施設整備にかかる本市試算は、羽村市などの先進事例からも2割以上も過大見積もりであり、給水コストは湯西川ダムの水よりも低く抑えられると考えます。
 松田新田浄水場は、ロス率が過大であり、これを他都市水道事業並みの3%にすることは可能であり、それによって104,000トンの給水が可能になります。
 次に、白沢水源は、平成15年の見直しの際、水源量は7万7,000トンから、渇水期の取水能力である6万トンに置きかえられました。最大給水量の発生は夏季であり、白沢水源の夏季の取水能力は10万トンを超えていることからも過小評価と言えるのではないでしょうか。少なくとも見直し前の7万7,000トンが妥当な評価と言えます。これらの現有水源を正当評価し、保全・涵養することで湯西川ダムからの取水はなくても、日量24万トンの取水が可能であると専門家も試算しています。
 国は全国的に巨大ダム建設計画を展開し、近くて安くておいしいきれいな水、つまり、地下水をつぶして、遠くて高くて汚れた水、つまり、ダム水を押しつける企業団方式、都道府県水道への統合を全国的に進め、自治体に過大な受水量を押しつけてきました。それが現在の水道事業、財政の破綻を生み出した最大の原因です。今こそ、ダムありきを見直すチャンスです。
 次に、意見書は、鬼怒川流域の洪水被害の抑制等の効果があるとして、治水の面においても必要不可欠の施設としています。果たして本当にそうなのか。実は、鬼怒川の治水計画は、五十里、川俣、川治の3つのダムで完結していました。そのことは、湯西川ダムが計画される以前の1973年と湯西川ダムが計画されて以降の1992年の2つの利根川水系工事実施基本計画を比較してみると一目瞭然です。鬼怒川石井地点での100年に一回の洪水ピーク流量、つまり、計画高水流量は、湯西川ダム計画以前も、また、計画以降も毎秒6,200トンで変わりません。また、ダムによる洪水調節がない場合の100年に一回の洪水のピーク水量、つまり、基本高水流量も、湯西川ダム計画前も後も毎秒8,800トンで変わりませんでした。こうしたことからも、湯西川ダムの治水効果がないことは明らかです。
 その後、国土交通省は、基本高水流量は最大に設定し直すなどをして事業を進めてきましたが、これは科学的にも再検証すべきです。ダム依存の治水思想が足元の河川整備をないがしろにして、危険な状態を放置することにもつながります。今、鬼怒川流域の治水対策を考える上で、屋上屋を重ねた無駄なダムの上流に降る雨の心配よりも、最近顕著な集中豪雨などに対応する堤防補強と河川改修こそ求められているのではないですか。湯西川ダムによる治水の幻想は捨てるべきです。このチャンスに、市民の命と権利を守る治水対策に転換させようではありませんか。
 最後に、必要のないダム建設はかけがえのない自然破壊につながります。世界では、逆にダムを壊し、自然の姿を取り戻そうとする流れが広がっています。湯西川ダム予定地には、県立博物館によって確認された希少地質である赤下の風穴があります。昔、湯治に行く旅人が冷風が吹き出す風穴で涼をとったそうで、まさに秘湯にふさわしい自然の宝です。それがダム底に沈み、渓谷の豊かな景観も失われます。本県初の記録種であるクビワコウモリやレッドデータブック掲載の猛禽類など、貴重な動植物への影響が懸念されます。地元住民にも、こうした宝を壊してダムをつくることが秘境温泉としての価値を失うとの懸念が広がっています。
 これまで、宇都宮市は、ダム負担金として約88億円余を投入、今後も31億円余を負担する計画です。地元住民の移転はほぼ完了し、ことし7月には本体工事に入っています。だから、完成しかないというのは通用しません。自然破壊と観光資源の破壊による損失ははかり知れません。また、維持管理費も膨大です。治水の効果もなく利水の必要もない、自然破壊と観光資源の破壊という負の遺産の建設は、この際根本から見直すべきです。そして、無駄な建設に振り回されてきた地元住民にはきっちりと謝罪をし、今後の生活再建に求められる最大限の対策をとることで理解を求めるべきです。
 以上、湯西川ダム建設事業の推進を求める意見書に反対の理由を述べてまいりました。湯西川ダムは、市民の利益につながらず、湯西川ダムからの撤退の絶好のチャンスに、議会が機敏に対応することこそ求められているのではないでしょうか。議員の皆様の良識ある御判断を期待いたしまして、私の討論を終わります。